エレミヤの場合にあっては、敗北そのものがむしろ勝利の所以であった。エレミヤは世に勝った。何となれば彼は全く世に敗けねばならぬほど、それほど真実を完うしたから。
(藤井武「人間エレミヤ」)
彼の地上の人生は43年に満たず、彼に許された結婚生活は11年に過ぎませんでした。彼の雑誌の読者は八百に足らず、彼は一銭の貯えをも残しませんでした。彼の家は彼の死後、二度の空襲(くうしゅう)で焼かれてしまいました。彼の熱愛した祖国は彼の預言の通り亡び、青年男女は彼の警告を無視して、今なお快楽を追い求めています。彼は一本松のように丘の上に立ちます。無数の人と車が彼の前を過ぎますが、多くは彼に見向きもしません。彼は一人の弟子も残さず、死後満30年を迎えて、彼のために公開記念講演会を開く者もいません。世を去る直前、彼は「人間エレミヤ」を論じて、「ああこれ完全に失敗の生涯ではないか」と言いました。藤井よ、あなたの生涯もまた「完全に失敗」ではありませんか。
私たちは彼がエレミヤについて語った言葉をもって、そのまま彼の生涯の飾りとしましょう。
(矢内原忠雄「藤井武を思う」全集 17:615)