矢内原忠雄


(石河光哉作 1947年)

普通の肖像(しょうぞう)画と異なり、この画の私は少々上方を向いて、遠くの目標を見つめています。その表情は内に向かって黙想するというよりも、むしろ外に向かって放心しています。外の目標へのあこがれをもって、私の霊魂(たましい)は私の肉体を抜け出ようとしているのです。これは来たるべきキリストを待ち望む私の霊魂のあこがれ(Sehnsucht)の姿です。もちろんそれを意識して描いてもらったのではありません。描かれた画によって、それを知ったのです。人の意識しない心の真実の姿を描き出す、芸術の力は偉大です。

(全集13:309「肖像画」)