編者まえがき
「矢内原忠雄(やないはらただお)による『日々のかて』」は太平洋戦争中に生きた無教会キリスト者、矢内原忠雄の信仰と預言のエッセンスを集めて、一日一句の形にまとめた本です。
矢内原はその信仰と思想を師の内村鑑三(うちむらかんぞう)から受け継いでいます。矢内原は預言者として神と共に歩み、キリストの愛に生き、「真理愛」に燃え、神の言葉を「真実」に語る孤独と悲哀の人でした。彼は「心の誠実」を重んじ、「真実な生活態度」を求めました。
矢内原独自の真理の啓示と展開はとりわけ『愛』、『真実』、『人格』、そして『純粋』のキーワードに見られます。矢内原はエレミヤのように深くそして「純粋」です。イザヤのように広く大きい内村鑑三と対照されます。矢内原の人格観念の展開は、彼の高校大学の恩師でありクェーカー信徒であった新渡戸稲造(にとべいなぞう)の精神を受け継いでいます。矢内原の「真実」と「純粋」は信仰の友であり預言の先駆者であった藤井武(ふじいたけし)によって深められました。学問を職業とした矢内原は読者に対する経済的依存が少なく、著作はそれだけ「純粋」に真理を述べることが出来ました。
編集の形式は、毎日の霊のかてとしてロングセラーを続けている内村鑑三の『一日一生』にならっています。構成は聖書などの引用文とそれに対応する矢内原の本文からなっています。ただし本文が詩や長文の時は引用文を省いています。また文字数の制限から文章は所々省かれています。原文は「出典」を参照して下さい。主な出典は矢内原の月刊誌『通信』および『嘉信(かしん)』の聖書講義と短言集です。配列は『通信』及び『嘉信』に発表された月を基本とし、記念日や季節に合わせました。
文章は口語体に統一しました。このため原文の表現を一部変えましたが、その意味するところは矢内原忠雄の精神に一致すると信じます。表現は平易に、むずかしい漢字をなるべく使わないように心がけました。中学生や日本語中級者が理解しやすいようにとの意図からです。このため「ひらがな」表現が多くなり一般の人には読みづらいと思いますが、寛容下さい。また所々で「よみがな」を付けたのは朗読を聞いても理解しやすいようにとの目的からです。なお朗読の時には流れが中断されないよう、本文中のカッコでくくられた聖書参照箇所だけは省略する方が良いと思います。
引用に当たって、聖書、ワーズワース、アウグスチヌス、リンカーン、リュッケルト、ダンテ、ミルトンの言葉は私自身の訳を用い、内村鑑三、藤井武、新渡戸稲造、日蓮の言葉は口語体に直しました。
本書を発行するに当たって矢内原勝氏より「矢内原忠雄の著作権と肖像権」の使用許可を無料でいただきました。また柳沼力氏と佐藤信子さんに校正を手伝ってもらいました。両親には毎朝の朗読を通して助言をいただきました。あわせて感謝の意を表します。
本書は新版に当たります。初版は一九九八年十二月に五十部だけ自費出版されました。初版に比べると一部省略された文章がありますが、内容は基本的に同じです。
1998年10月 あぶくま守行