あいのう研究所開設に当たって

                             所長  奥田 信夫

 

あいのう研究所の理想

僕がイメージしている研究所は、宮沢賢治の「羅須地人協会」である。彼の願いは「我々に必要な(農業)科学をわれわれのものにする」ことによって、農業生産を安定させ東北農民の苦境を救うことであった。我々もいま、当時とは違う意味で苦境に直面しているこの社会、特に農村社会を、後を継ぐ若者達が希望を持って生きられる社会にするために、小さな光を灯したいと願っている。

今のところ、農林業研究、教育研究、聖書研究、北欧・スイス研究の4つの柱が提案されているが、これは三愛精神を基礎としているといってよい。それぞれに何名かの責任者がつくことになり、その人が研究の課題や方向性を提案していく事になるが、僕の考えを大まかに示せば以下のようになる。

 

あいのう研究所の課題

1 農林業研究 

有機農業や自然農法に限定せず、持続可能な農林業、環境に負荷をかけない農林業、安心安全な食べ物の生産、加工や販売、そして何より農林業で生活できる経営のあり方の探求が課題となる。 

2 教育研究

   今日の教育には子供達の体験や創意工夫に基づく豊かな感性を育むという点で欠けるところがある。困難が予想されるこれからの社会で人間らしく生きていける人材を育てるには、小さい時から農林業のような自然と共に働く体験を通して自然への畏敬、愛情を感じる感性豊かな若者の教育を目指すべきである。そのための教育、特に愛農教育はどうあったらよいのか実践を伴う探求が求められている。

3 聖書研究

   神学のような学問的聖書研究というより、愛農がこれまで担ってきた、またこれからも担うべき課題、農村伝道のための研究が最も重要な課題である。これまで聖霊社が、聖霊誌や聖書研究会によって取り組んできた農村伝道をより拡充し、実のあるものにするための研究が求められている。そのためには、この課題に取り組でいるアジア学院や農村伝道神学校などとの協力も必要であろう。

4 北欧、スイス研究

   北欧四か国とスイスは、今日の世界でもっとも平和で豊かな福祉国家である。その源流には国民教育、とりわけ三愛精神に基づく国民高等学校の教育があると思われる。愛農高校は創立当初からスイス、ノルウェーと深い関係を持ってきたが、今後もこの地域から学び、それを日本の社会に提示していくことは意味深いと思われる。こうした取り組みを通じて北欧の農学校と交流を持つことも視野に入れていきたい。

 

研究の方法

        研究方法としては、内外の文献を調査研究するという手法ではなく、実地に学び、実践を通してその有効性を確認していくという方法が適していると思う。また在野には埋もれた形ですばらしい実績を上げておられる方が多数おられるであろうから、そうした事例を紹介していくのも重要な役割と言える。

 

研究の公表

研究への参加は全く自由で、当面、会費も成果に対する報酬もない。発表はおもに愛農高校のホームページか愛農誌ということになる。研究成果が質量共に増えれば、愛農叢書のような形で刊行することもありうるであろう。