松村 七海(53期) 土を敬愛する

2018年度 意見発表
土を敬愛する
3年 松村 七海(53期)


「農業は五感が大切だ。」
これは、ある農家の方がおっしゃっていた言葉だ。その日の温度や湿度、作物の様子を肌で感じ取り、植物が過ごしやすい環境を整える。農業には知識だけではなく、五感を使い肌で自然を感じることが大切なのだ。先日、果樹部で梅干しに使うシソの種を蒔いた。その時、改めて私は気付かされた。土に触れると自然と心が落ち着いてくる。私は土に触れる事が好きだ。

 

しかし、そんな土から離れた農法を最近広告で見かけた。「アクアポニックス」という農法だ。気になったので、何気なく調べてみた。アクアポニックスは水産養殖と水耕栽培を掛け合わせ、魚と植物を一つのシステムで一緒に育てるという新しい農法だそうだ。魚の排泄物を植物が分解し植物がそれを栄養として吸収する。植物によって浄化された水が再び魚の水槽へと戻る。植物の栄養はそれだけで充分に補える、いわゆる循環型農業とされている。水槽を使う為、土は不要。

土がないと害虫が付きにくいので農薬、化学肥料も不要。オーガニックで人にも地球にも優しい。歴史は古く、西暦千年まで遡る。メキシコの原住民族のアステカ族が実践していたチナンパという農法が起源とされている。野菜と魚を同時に栽培するので、生産性が高い。循環型農業とされている為、水や肥料のコスト削減になる。一番期待されているのが砂漠等の農業を行う事が困難であった所での活用だ。そういった所でアクアポニックスを行う事で世界の食糧難の解決が期待されている。「正に夢の農業。」とまで絶賛する記事もあった。

 

あまりに良い事が多いのでデメリットについても調べてみた。しかし、デメリットは出て来なかった。そこに私は違和感を覚えた。アクアポニックスが良い事というのは間違いないのかもしれない。しかし、土を使わないのだ。私はそこに、とても違和感を感じたのだ。水耕栽培でも土は使用しないが、アクアポニックスは土の存在しない循環が成り立ってしまう。これが進むと、何らかの支障が出て来たり、今までの人間の概念が覆されたりすることもありうる。

 

歴史上、画期的な発見、発明が起こる時に、それまでの考え方、概念が劇的に変わる。これを、「パラダイムシフト」という。アクアポニックスは私達にとって、パラダイムシフト的な農法と言えるだろう。
もし、AIがアクアポニックスをやりだしたら、農業は完全オートメーション化する。人は土を耕さなくてよくなる。アクアポニックスにやって、自然の恵みや生産者への感謝という概念、五感を使った農業がパラダイムシフトしてしまうかもしれない。そこに私は不安を感じる。

 

土があると、確かに苦労は多い。除草、害虫駆除、耕耘。手に豆が出来るし、泥だらけにもなる。しかし、苦労があってこそ、収穫の時の喜びは大きい。自分が汗水流して育てた物は誇りを持って消費者に提供できる。今まで実習でお世話になったどの農家さんも、自分の生産するものに、自信と誇りを持っていた。苦労しながらも土と向き合い続けてきたからこそ自信を持てるのだろう。そして、収穫した作物を皆で美味しく頂く。自然の恵みや生産者に感謝して味わう。「農業は五感が大切」という五感には、この感謝して頂くということも含まれるのだと思う。これは土が無いと出来ないことだ。土は作物を育むと同時に人々に喜びや感謝、自信、誇り、様々な思いを育んでくれる。これは、土ならでわだと思う。

 

又、土で育った作物は、水のみで育った作物よりも見た目が悪いかもしれない。泥や虫がついていたり、動物にかじられていたり。しかし、土で育った作物には、目には見えないたくましさがあると私は思う。泥だらけの作物でもその背景には、苦労しつつも、人の食べ物の為に汗水ながしてくれた人々の思いが込められている。そんな作物は、たとえ水だけで栽培されたものより見た目が良くなくても、とてもたくましいと思う。

 

将来、人口管理の下、もしかしたらAIが全てを行うようになるかもしれない。そこに喜び、感謝、やりがいが無くなってしまうようにはしたくない。苦労するからこそ、そこに喜びや、面白さ、やりがいがあるのだと思う。苦労の中に農業の楽しさを感じられるのは、土に触れる人の特権だと思う。
アクアポニックス自体が良いのか悪いのかは分らない。技術の革新は人間には必要だ。アクアポニックスは人類にとって必要かもしれない。

 

今後、益々アクアポニックスの様なパラダイムシフト的農法が出てくるだろう。私達がそれを受け入れるべき世界になっていくかもしれない。そんな中でも、私は土に触れることを大切にしたい。愛農高校の建学の精神には「土を離れた生命は枯死する。」とある。この言葉は三年間を通し私の中に根付いてきている。いつかこの精神も覆される日がくるかもしれない。それでも私は、土に関わることに、こだわりを持ち、苦労を楽しめるような生き方をしていきたい。