主を畏れることは知識の根源です。学問と教養(しん言 1: 7)
学問をするのに適した心情を養うものが、学問の底に、また周囲に必要です。それは芸術と宗教です。芸術は人の心を美にむかって開きます。宗教は人の心に真理を啓示します。人に利害の打算と世の賞賛と批評と肉体の死生を超え、自由の心を以て真理の探究に従事させるものは、芸術と宗教、とりわけ後者です。
学問に従事する人はだれでも知っているように、入り乱れた複雑な事象の中から、何が法則であるかを突きとめるために必要なものは、「着想」です。学問的に真と偽を判別する第六感です。この直観のとぎすまされていることが、学者の有力な武器です。この直観によって学者は研究の目標を定め、研究の出発点をつくり、与えられたる前提の下に研究の過程を進めます。研究の過程そのものは客観的でなければなりませんが、研究の着想と目標設定には研究者自身の「人間」が大きな関係をもちます。芸術あるいは宗教によって「人間」を広くかつ深く養うことが、その人の学問をうるおします。学者の世界観を離れてその人の学問はあり得ないのです。すなわち学問に関する限りにおいても、芸術と宗教は教養の重要な内容をなすものというべきです。