『目には目を、歯には歯を』とは、あなたたちの聞いてきたところです。しかし私は言います、悪しき人に手向かってはいけません。あなたの右のほほを打つ人には左のほほも向けなさい。あなたを訴えて下着を取ろうとする人には上着も与えなさい。無抵抗主義
「悪しき人」との戦いにおいて自己の利益に固執(こしつ)しないことは、ただに最善の実際的知恵であるばかりでなく、また神の国の民としての道徳的義務です。柔和な人は神の国をつぎ、利益に執着(しゅうちゃく)する心はサタンより出ます。それでは社会の不義に対して戦うことは、神の国の民がしてはいけない事でしょうか。決してそうではありません。イエスの言葉は、悪しき人が私たち自身の権利・利益をかすめ奪う事に対して、抵抗してはいけないと教えるのであり、世に悪が行われ、兄弟姉妹がしいたげられているを黙って見過ごしなさいとのことではありません。いや、世の悪と勇気をもって戦えばこそ、このように戦う人の上に「悪しき人」は圧迫・迫害を加えるのです。それには抵抗してはいけません。彼が私の右のほほを打つなら左をも向け、私の一つの地位を奪おうとするなら他の地位までも捨てなさい。このように自己の個人的利益に執着しない人こそ、悪しき人との戦いにおける最大の勇者なのです。おどしも彼を屈し得ず、利益も彼を妥協させることは出来ません。だれが言いますか、無抵抗主義はおくびょう者の道徳であると。これはイエスの言葉も精神をも全く解しない人の妄言(もうげん)です。