主は振り向いてペテロを見つめました。そのときペテロは「今日、ニワトリが鳴く前に三度私を知らないと言うでしょう」と言われた主の言葉を思い出しました。そして外に出て激しく泣きました。ペテロの涙
ああペテロ!あれほど勇敢(ゆうかん)率直を生命としたあなたが、かくも卑怯(ひきょう)に師を否認しようとは。下女下役の一言に突かれて、恩師に対するあなたの全誠実は崩れ落ちたのです。ペテロは自分の口を八つ裂きにもしたく思って、じだんだ踏んだでありましょう。泣きなさい、ペテロよ、男泣きに。罪を悔恨(かいこん)する涙には、天の星も揺れ、固き大地も溶けます。卑怯(ひきょう)、不真実!不真実、卑怯!私のこのくちびるから「その人を知りません」との言葉が出たとは!勇敢率直の「生まれつき」など、人生の大きな試練の前には何の力もありません。「私はたとえあなたと共に死んでも、あなたを否定しません」との「決心」など、いざとなれば何の役にも立ちません。私は無力の罪人です、罪人の頭です。主よ、私の罪を赦して下さい。そうです、ペテロよ、あなたの罪は大です。しかしあなたの涙のゆえに、私たちはあなたを責めないでしょう。 ・・・ あなたは卑怯にも師を知らないと言いましたが、イエスを愛し、イエスを思うあなたの心は少しも揺るがず、かえってこのために百倍しました。あなたは自分を徹底して罪人と知りました。そして自分に死んでキリストに生きる素地が、悔恨の涙の洪水の下から盛り上がってきたのです。人間的誠実、人間的勇気のペテロは死んで、信仰による誠実と勇気のペテロが生まれ、こうして彼自身の信仰の戦いの最後において、イエスの名のゆえに殉教の死を怖れない勇者となったのです。