3 月 1 1 日
海よ、私をひろくしなさい。 海よ、私を強くしなさい。 心配が私の勇気をくじき、 疲れが私の思考を圧します。 私の精神と体力はまさに亡びようとしています。 ・・・  しかし、海よ、あなたがあらしに逆らう時、 私の忍耐力はよみがえります。

内村鑑三「愛吟」

海辺に

 地上の出来事と人事のわずらわしさに息がつまりそうになると、「海よ、私をひろくしなさい」という、『愛吟(あいぎん)』の中の一句が思い出されます。

 北西の風の強いある冬の日、私は大磯の海浜に立ちました。広い大洋を航海する時のような解放感はないですけれども、それでも大海にむかって胸を張り、大きい息を吸うと、自由が体にみなぎります。

 足もとに波が寄せては引き、引いては寄せます。何千年、何万年、同じ運動をくり返し、つきることなく、飽きることもありません。しかも一波一波、全く同じ形、同じ運動ではありません。海辺にいると私の霊(たましい)は時間の制約から脱け出て、永遠の国に神と遊ぶのです。 ・・・ 

 強風に逆らって砂浜を歩くと、岩をも削ると言われる飛び砂はほほを打って、皮膚を鋭く刺します。私の血管の血は一滴ものこさず、血気して激風と飛砂に抵抗し、前進に若い力が流れます。



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