毎年恒例の人権集会が開かれました。
今回の講師は北出新司さん。2013年に公開され話題になったドキュメンタリー映画「ある精肉店のはなし」の主人公のおひとりです。午前中は映画の上映。そして午後は北出さんの講演会でした。北出さんご兄弟は以前にも何度か愛農に来て話をしてくださっています。
「僕らが僕らの仕事を全部見せたのは、こうした偏見を引き受けるという覚悟からだ。僕らの解体作業は終わるけれど、同じ仕事をして皆さんに精肉を供給している労働者がいることを忘れないでほしい。」 映画の中での北出さんの言葉です。
北出さんは大阪府貝塚市で精肉店を営んでおられます。2013年まで屠畜の仕事もされていました。北出家は代々、屠畜を生業としてきたそうです。
映画では、牛の屠畜から、精肉店、北出家の皆さんの食事風景、地域のお祭り、そして北出さんの息子さんの結婚式などを映していきます。北出家の皆さんのインタビューもところどころに挿し込まれ、新司さんたちのお父さんなどについてが語られます。それは、北出家や地域の人たちが背負ってきた「部落」差別の歴史についての語りでもありました。
日本では歴史的に「部落」に住む人たちが屠畜を生業としてきました。そして、「部落」に対する差別は今日では表立っては見られなくなったにせよ、根強く残っているそうで、例えば、結婚の時に家族から反対されるケースもいまだにあるそうです。
講演会の中で、北出さんはご自身が部落差別と向き合う過程を話してくださいました。高校生の時、北出さんは水平社宣言と出会います。「・・・ケモノの皮を剥ぐ報酬として、生々しき人間の皮を剥ぎ取られ、ケモノの心臓を裂く代價として、暖かい人間の心臓を引裂かれ、そこへ下らない嘲笑の唾まで吐きかけられた呪はれの夜の惡夢のうちにも、なほ誇り得る人間の血は、涸れずにあった。・・・」と記される水平社宣言。これは日本の初めての人権宣言です。この宣言を読み、北出さんは自分の父親が苦しめられてきた差別を自覚し、自分が「どんなことをせんといかんのか」と考え、差別を無くす活動を始められたそうです。
その活動で辛い思いもたくさんしたそうです。「寝た子を起こすな」と被差別地域の人から言われたこともあったそうです。しかし北出さんは「寝た子は必ず起きる。差別は繰り返す。」と活動を続けてこられました。そして、差別は重層的だとも。在日韓国人に対するヘイトスピーチ、障碍者差別、女性差別など社会にはたくさんの差別がありますが、それらは重なっているということです。
映画の中で北出さんたちの屠畜の手さばきは、とても美しく、誇り高い姿でした。そして、私たちに語ってくださった姿はとても力強かったです。
北出さんたちの生きざまは、現実に立ちすくんでしまいそうな私に、勇気を与えてくださいました。北出さんにお会いできて、本当に良かったです。
講演の休み時間に、北出さんが生徒たちに囲まれて、屠畜の道具を見せながら、道具の使い方を教えてくださいました。生徒たちの北出さんを見る目がまぶしそうでした。このような出会いが、差別を無くしていくのだと思いました。
〔セキグチ〕