9月18日(土)に奥田知志さんの講演会がありました。実は学校主催じゃなくて、PTA主催の親子交流会の一環で、PTAがゲストとして呼んでくださいました。 (奥田知志さんは北九州の東八幡キリスト教会牧師、認定NPO法人抱樸理事長で、「プロフェッショナル」や様々なメディアにご出演されているのでご存知の方も多いかと思います。)
奥田さんは「不登校やホームレスを社会復帰させるというけれど、そもそも戻りたい社会なのか」と問います。子どもの自殺は2020年に499人。そのおよそ60%が理由不明。最後の最後まで「助けて」を言えなかった。それはなぜか。奥田さんは「大人が助けてを言えない社会だから」と指摘します。 「自立した大人」とは 自己で責任を負える依存しない大人こそ立派な大人であるという社会の「自立観」を、奥田さんは「依存先を増やすことこそ自立だ」と言います。「そもそも人なんて迷惑が服を着て歩いているようなもの。」だとも。
その上で「助ける」とは人間にとってすごく重要な要素と教えてくださいました。サルからヒトに進化する過程で、出産においてヒトは助産を必要とするようになった。沢山の人に子育てを助けてもらうようになっていったのです。それは「助ける」ことこそ人が生き延びるために必要な要素であるともいえます。
ご友人の茂木健一郎さんが「奥田さん、なんで奥田さんがそれだけ忙しいのに元気だか分かる?」奥田さんはこう答えます。「それは親が頑丈に産んでくれたから…」茂木さんは「違うよ。人間の脳のポテンシャルは自分のことだけを考えていると1人分のエネルギーしか出ない。他人のために動いているとそれ以上のエネルギーが出るようになっているんだよ」と教えてくれたそうです。人は助けることと助けられることの両方で満たされるという科学的な裏付けがあるという不思議な話です。
話は相模原の障害者施設殺傷事件に及びます。元施設職員の植松被告が入所者19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせた事件で、その動機が「障害者は不幸しか作らない」からというものでした。犯人の植松被告に面会した奥田さんは植松被告の役に立たない人は必要ないという発言に対して、こう問います。「ではあなたは事件前世の中に役に立つ人物だったか」。少し考えて植松被告は「あまりそうではありませんでした。」と答えたそうです。
人の価値を世の中に対する生産性で語る人は多く、また植松被告もその一人だということができるかもしれませんが、実はその生産性について彼自身が「社会にとって自分は必要でないかもしれない。だから必要なことをして認められなければならない」という思いに囚われていたことが見えてきます。だからこそ生産性を示すために今回の事件を起こした。
そしてそれ自体は決して許せないけども、人間としてあるまじき行為をした植松被告を「死刑になって当然」とするのも、また「社会にとって必要のない人」を生み出す判断ではないかと、奥田さんは問います。
奥田さんは人が生きる意味を「社会に対する生産性」で評価する事はとても危険なことだと警鐘を鳴らします。社会福祉の父と言われた糸賀一雄さんが70年も前に残した言葉に「自己実現こそ創造であり生産である」という言葉を引用して、個人がその個性に基づいて、その人らしく生きていくことこそ創造であり生産であるということで、決してどれだけの金銭を効率的に生み出すことができるかどうかとは違う価値基準であるということを強く訴えてくださいました。
最後に生徒から「奥田さんはこれだけ色んな事をしていて、たくさんしんどいこともあると思うんですが、どうやってメンタルを維持しているんですか」という質問に「ブレブレですよ(笑)」と一言。「プロフェッショナルの再放送を妻と見ていたら妻が「こんなすごい人がいるんやねぇ」って隣で言うんですよ。ここにいるよっていうんですけど、そんな人は知らんと言われる(笑)」「答えは自分の中には無いんです。誰かとの関係の間に生まれる。だから誰と出会うかでどんどん変わる。だから楽しいんです。」と締めくくられました。
引用したのは講演のほんの一部です。上手く引用できてませんが…
奥田さんの著書「逃げおくれた伴走者」の帯に「勇気があるんじゃなくて、勇気がないからやめられなかったんですよ。要するに逃げる勇気がなかった。逃げおくれた。ほんとはこの道を行くとやばいってのは、長年やってるとわかるんですよね」と書いてあります。
人柄と言葉その場の空気。会いたい人に会って、聴きたい話を聴き、話したい話をする。改めて「答えは人との間にある」と思うのです。良い機会を与えて下さった奥田知志さんとPTAの皆様に感謝です。
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以下に奥田さんが発信されている抱樸(ほうぼく)チャンネルのURLを載せておきます。是非ご覧下さい。以前愛農高校に講演に来ていただいた内田樹さんとの対談です。他にも平田オリザさんとか釈徹宗さんとか宮台真司さんとか…豪華。